視力回復の心をつかむための施策
時が経てば現在行われている治療法が禁忌になり、いままでダメだと思われていた治療を優先するようになることもある。
それくらい時代によって医学の「真実」は変わってしまう。
現在、当たり前のように行われている医療行為や治療が、その時代で正しいと信じられていても、時を経て間違いになることも十分にある。
前述したように、EBMにもとづく医療行為は五○%弱といわれているので、残りの半分は長年の経験や慣例によって行われているものが多いのだ。
しかし、大規模な調査を行った結果であっても、調査期間が長くなったり、より大勢の人に薬が使われることで、副作用が判明することもある。
極端な言い方をすれば、いま飲んでいる新薬を五十年間飲み続けることが、本当に病気の予防になるのかどうかは誰にもわからないのだ。
つまりEBMという考え方で治療を行っていても、それは確実でも普遍的なものでもなく、医学の進歩によって常に変化していくものと考えるべきだろう。
もういちど言う。
医学は普遍的なものではなく、変化し続けるものと理解すべきである。
だからこそ、医学に対して、過大な期待や絶対的な信頼を置く一と自体が不可能であるのだEBMで重要なのは、前述したように、信頼度の高い論文や疫学調査である。
EBMには分析データを絶対視する傾向があるので、そこに大きな問題が潜むことになる。
ひとつは、医学研究データが、どうしても作為的になるということである。
というのも、疫学調査が行われるときは、「この薬は効く」、あるいは。
)の治療は効果があるはずだ」という前提のもとになされることが多く、「この薬は効果がないはずだ」という否定的な見解を証明するための研究がなされることはほとんどないからだ。
たとえば、「人間ドックは本当に有用なのか」ということを証明するには、「人間ドックを十年間受け続けた人は長生きをする」というデータがない限り、人間ドックが本当に意味のあるものかどうかはわからない。
ところが、そういった研究データはゼロに等しい。
人間ドックを研究する医者たちの問題意識は、「人間ドックを受診した糖尿病患者の長期的な血糖値の変化」とか、「新しい検査が人間ドックでは有用であるか」といったものであって、あくまでも人間ドックは有用であるという大前提のもとに研究が行われている。
そういった研究であれば、どうしても研究者のバイアス(偏見)がかかってしまう。
研究・調査は目的を持って行われるのだから、どうしてもなんらかのプラスの結果を求めようとするのは当然であり、そのためにネガティブデータはなかなか研究成果として表には出てこない。
こうして、ネガティブな研究結果は発表されないということが一般的になる。
医学検査のなかには、人間ドックと同じように、その有用性が厳密に検証されていないものがいくつかある。
そうした検査の信頼性はあくまでも虚構であり、あるとき突然に検査の信遍性が否定されることもある。
たとえば「ロールシャッハテスト」がそうだ。
ロールシャッハテストとは、心理療法で用いられる投影法性格検査のひとつで、壁のシミのようなものを見せ、それが何に見えるかを答えさせることによって性格の分類をしようというものである。
スイスの精神科医Rが考案したものとして知られ、私自身もかって学生だった頃に精神科の授業でその講義を受けたように思うし、実際に臨床の場でも使われてきた。
ところが、ロールシャッハテストの検査結果の分類に意味がないということが指摘されだから医者が言うことが、すべて真実であるとは言えるわけもなく、医者自身がそれを真実であると思いこんでしまっているところに、問題の深さがあるともいえる。
EBMに潜むもう一つの問題は、治療基準や患者対象をどこに設定するかで、その薬や治療の有用性が変化してしまうことだ。
有名なものとしては、PTCAが挙げられる。
PTCAとは、心筋梗塞を起こしたときに、冠状動脈に特殊なカテーテルを入れて、狭くなった冠状動脈を広げる手術のことだ。
この手術は、術後の観察期間や対象となる患者によって、その有用性が変わってきてしまう場合がある。
富山大学教育学部教授のMによれば、科学的な裏付けのないまま、使用され、信じられてきてしまったという。
長いあいだ当たり前のように使用されてきた臨床検査が、実はあまり根拠のないものだったとは驚きであるが、実際にはそういったことが起こり始めるのだ。
ある研究報告によれば、糖尿病を分析し、複数の冠状動脈に病気のある場合、PTCAは冠状動脈バイパス手術より生存率が悪くなってしまう。
また、急性心筋梗塞の治療として、静脈から血栓を溶かす治療薬を入れる血栓溶解療法があるが、PTCAのほうが長期的に見ると、死亡率が減ることが報告されているが、これも対象をリスクの少ない患者に限ると差が小さくなってしまう。
同様の問題を指摘されているものは他にもある。
たとえば、高血圧症を治療する薬を比較した場合、三年間では違いが出ないが、五年経過をみると病気の発病予防効果に差が出る場合もある。
こういった医学研究調査は、どの時点を薬の評価、治療の評価と考えるかで結果が違ってくるのだ。
大規模調査で有名なものに、ALLHATというものがある。
ALLHATは、冠動脈疾患のハイリスク高血圧患者四万二四一八例を対象としたきわめて大規模な調査である。
この調査の目的は、高血圧治療に使用される三種類の薬(利尿薬、カルシウム桔抗薬であるアムロジピン、ACE阻害薬であるリシノプリル)の効果を比較し、薬によって心臓の病気や脳卒中の抑制に差が出るのかを調べることにあった。
追跡期間には平均四・九年が費やされ、「利尿薬とカルシウム桔抗薬では大きな違いが出ていないが、利尿薬とACE阻害薬では黒人において脳卒中や心不全の発症が少ない」という結果になった。
しかし、これをさらに詳しく解析していくと、さまざまな見方や問題点が出てきてしまうALLHATを実施した本当の狙いは、「値段の安い利尿薬の予防効果を調べること」であった。
もしも利尿薬に他の薬と同等の効果があるならば、値段の高い他の薬を使わずとも、安価な利尿薬を用いればいい。
そうすれば医療費を抑制できる。
結果は、三種類の薬には思っていたほどの差がなかったので、ALLHATを調査した側の狙いどおりだったことになるだろう。
しかし、この結果は、巨額の新薬開発をしてきた製薬会社にとってはダメージである。
なぜなら、数十年も前に開発された利尿薬と、莫大な費用を投入して開発した新薬に差がないとすれば、製薬会社にとっては大損だからだ。
したがって、この疫学的な調査をどう解釈するかが、きわめて重要になってくる。
ALLHATを調査した側は、利尿薬の有用性を唱えるだろうし、新薬であるカルシウム桔抗薬を売っている製薬会社は新薬にメリットを見いだそうとする。
そのために、各製薬会社は、有名医学部教授の意見を医学系の雑誌に掲載し、新薬の効果についてさまざまな解釈ができることを主張した。
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